「まさかお前が入るなんてなー……どういう心境の変化だよ」


書類に必要事項を書き込む僕を見下ろし、純が問いかけてくる。

六月の第一土曜日。真昼間だというのに、太陽は分厚い雲に邪魔をされて顔を出せないようだ。今にも雨の降りだしそうな色をしている。
憂鬱な天気にも関わらずこの福祉センターまでやって来たのには、もちろん理由があった。


「これでいい?」


僕が差し出した書類を手に取り、「はいどーも」と彼はそれに目を通す。


「おっけ。そしたらまあ……お前は今日からサークル員ってことで」


美術部には戻らない。そう決めたのと同時に、「なないろ」で活動してみようという考えに至った。

絵を描くこと自体は好きなのだと思う。けれども、それが趣味かといわれると怪しいところだ。
強制的に絵を描く状況をつくらなければ、僕はまた投げ出してしまうかもしれない。これは防御策である。

純の腕がこちらに伸びてきた。そのまま肩を叩かれ、くるりと体の向きを変えられる。目の前には集会室のドアがあった。


「なに? 痛いんだけど」

「おーいみんなー、いいかー。開けるぞー」