「白先輩なら何か知ってるのかもしれないと思って、航先輩のことを聞いたんです。初めはあんまり話したくないって断られちゃったんですけど、何度かお願いして教えてもらって……」

「僕の絵がもう一度見たいから、だっけ」


彼女のしつこさには、白先輩も折れたに違いない。
僕の言葉に、清は「それももちろんそうなんですけど」と苦笑する。


「航先輩のこと、もっとちゃんと知りたいと思ったんです。航先輩自身のことを、私が知りたかったんです」


真っ直ぐとぶつけられた願望が、心臓に深く突き刺さる。それは、痛いくらい眩しくて純真な「好き」だ。

――好意も恋慕も、向けられるたびに心臓が冷たくなっていくだけだった。
当然だ。好かれるように振舞っているんだから。当たり前だ。相手が気持ち良くなるような言葉をあげているんだから。

違う。違ったんだ。少なくとも、いま目の前で微笑む彼女に、僕は彼女の望むような言葉も仕草もあげられたことなんてない。

それでも、彼女は僕を優しいと言う。


「……ありがとう」


唇が動いた。喉から空気が震えて、音となって溢れた。
左胸に手を当てる。心臓の温度なんて測れないけれど、きっと温かいのだと思う。

彼女は返答の代わりにもう一度その瞳を潤ませて、くしゃりと笑った。