膝に手をつき肩で息をしながら、彼女が必死に訴えかけてくる。
完全に足を止めた僕に安心したのか、清はゆっくりと姿勢を戻して自身の頬を擦った。


「あの、航先輩」

「さっき言った通り、美術部には戻らない。それが僕のけじめだから。でも、絵は描くよ。君が見たいって言ったからね」


この数日間、悩んで出した結論だ。
忘れるのではなくて、ここからまた始める。僕は、彼女のために絵を描く。ある種、それが自分のためであるのかもしれなかった。


「君が白先輩に頼んだんでしょ。僕と話せって」


余計なことをしてくれるなよ、と内心毒づいてしまった自分がいたのも事実だった。もちろんそれは最初のことであって、今は話すことができて良かったと思っている。


「……はい。勝手なことしてごめんなさい」


清が目を伏せ、謝罪を口にした。

退部する前、僕が最後に描いた絵について、部長に尋ねたのだという。

自分の中では既に完成しているつもりだったその絵に手を加えたのは、白先輩だったらしい。かつての部長が彼女に仕上げを頼んだそうだ。以前、僕が一番お世話になっていたのは間違いなく白先輩であったし、それは頷ける。
僕の色覚では完璧だったけれど、他の人からしたら未完成に見えた。そういうことだ。白先輩は主に暖色の絵の具で色味を付け足したのだろう。くすんで見えたわけだ。