きっぱりと告げて首を振れば、部長は怪訝な面持ちで黙り込む。

美術室の後方には部員の絵が貼られており、そこには去年僕が描いた「天使」の絵もあった。
机の間を縫うようにして歩いていく。その天使の前で立ち止まり、じっと目を凝らす。


『航先輩の絵を初めて見た時、見えないはずの色が見えたんです』


そんな馬鹿な話があるだろうか。未だに信じられない。
けれども、あの時の美波さんが嘘をついているとは思えなかった。そもそも、彼女は生産性のない嘘をつくようなタイプではないだろう。

どんなに見つめても、目を細めても、目の前の天使はただくすんでいた。
自分が最後に見た時とは少し色味が変わっているような気がしなくもない――が、だからといって僕が鮮明に見ることができないはずの赤色を、特別綺麗に認識できるわけでもなかった。

否、僕は赤が嫌いだ。だから、この絵を描いた時、赤を使ったはずはない。僕の苦手な暖色を使うことなく、寒色で描いたはずだった。そのおかげで、絵の仕上がりは一切の濁りも曇りもなく、少なくとも僕の目には映っていたのだ。

――じゃあ、どうしてこの絵はくすんでいる?


「犬飼くん、な、何して……」