世界史の授業は嫌いだ。
カタカナばかりで人名や国家名が覚えにくいとか、暗記が苦手だからとか、そんなありふれた理由じゃない。


「えー、では今日はここまでにします。重要な部分なので、各自きちんと復習しておいて下さい……」


教壇でぼそぼそと喋る声に、僕は今日も苛立つ。

世界史を担当している教師が嫌いだ。
皺のついたシャツを着て、ただでさえそこまで高くない身長は、猫背のせいで更に低く見える。

その教師が教室から出て行くと同時、授業終了のチャイムが鳴り響いた。


「ねえ、ショータ。ノート見して」


前の席に座るクラスメートの背中を叩く。
こちらを振り返ったショータが、わざとらしく「ええ?」と眉をひそめた。


(わたる)、お前また寝てたのかよ」


その問いに頷いて、両手を合わせる。お願い、と頼み込んだ僕に、相手は満更でもなさそうだった。
このやり取りも、もう少しで十を数えることになるだろう。


「まあいいけどさあ……何でいっつも俺なんだよ。綺麗にノート取ってるやつの方がいいだろ」


言いつつノートを渡してきた彼に軽く礼を述べて、自分のノートを広げる。


「そうだよ。次から私のノート貸そうか?」