───『お前、名前は?』

すっかり忘れられている私が、「忘れられない女」である可能性は1%だってない……。



「クラスメイトの女と話せたのに、なんでそんなど暗い顔してんの、もっと喜べばいーのにさあ」


3限目開始のチャイムが鳴るとともに、黒土くんはすっと現れて隣の席に腰を下ろした。



「黒土くん、私たちの会話聞いてたの?」

「いやまったく。廊下から見てただけ」

「そうなんだ。ていうか黒土くんも授業受けるの?」

「せっかく教室まで来たしねぇ」



のんびりと頬杖をついて窓の外を眺める黒土くんは、クラスメイトの視線に気づいているのか、いないのか。

自分がモテてること、わかってるのかな。


「ねぇ、るなこ」

「なぁに?」

「怜悧くんから伝言預かってるよ、るなこに」

「え、伝言! どんなっ?」

「おお、食いつきがいいことで」


にやりと笑われて、顔がぼっと熱くなる。