「あのっ」


背中に声をかけると、ちょうどその方向から車が走ってきて、ヘッドライトの眩しさにとっさに目を細める。

振り向いてくれたのに、逆光で顔がよく見えない。


なのに……ざわっと胸が騒ぐ。


立ち姿が
――記憶の中の男の子と重なって見えた。



――本当にありがとうございました。

そう言うつもりだったのに。




「――れい、り、くん、?」


名前が無意識に零れて。

私たちの間を風が吹き抜けるまで、時間が止まったのかと覚錯するほど静かだった。




「……誰それ」


抑揚なく落とされた声に、小さく胆落した。

そうだよね、こんな都合よく会えるわけない……。




「す、すみませんヘンなこと言って、アハハ……。本当にありがとうございました」



もう一度頭を下げたときには、彼はもう、こっちを見ていなかった。