とっさに、あきれられるか怒られるかのどっちかだと思ってうつむく。
「男を煽ってるって自覚あんの」
あまりに小さくて低い声は、聞き取れず。
たぶん、嫌みを言われたんだろうと勝手に解釈する。
だって今の私を客観的に見たら、いきなり泣き出すオカシイ女だもん。
「すぐ泣き止めって言っても無理か」
「うぐっ……ごめ、なさ」
案の定、落ちてきたのはそんなセリフ。
だけど、想像よりも柔らかい声。
つられるように再び顔を上げれば。
「突き飛ばさないって約束しろよ」
「……?」
「俺は三好みたいに優しくはできねーからな」
視界が暗くなる、1秒前。
最後に見たのはワインレッド。
──怜悧くんのネクタイの色、だった。
ムスクの甘さが脳を刺激する。
抱きしめられてる。
怜悧くんの腕の中にいる!
ぼっと火がついたみたいに体の内側に生じた熱は、あっという間に全身を支配した。倒れちゃいそうだし、倒れる前に溶けちゃいそう。