けれど、流石には段保持者なだけはある。
空手と護身術を心得ているとは聞いていた。
急所を避けたのか、奴はまだ意識があるようで、首を押さえながら床に倒れこんだ。
愚痴愚痴と何かいっているが、どうでもいい、とっとと気失っとけ。
そう思い睨みつけた時、背後から泣きそうな声が聞こえた。
「がっ君っ…」
……いや、泣いている。
慌てて桜子の方を見ると、目に涙をいっぱい溜めながら、助けを請うように俺を見ていた。
乱れた服装を隠すように、胸を押さえている。
「…………………あー」
声にならないような声が出た。
どうして。
今日、あんなにもあっさりと桜を帰してしまったんだろう。
俺はどうして、もっとこの男に危機感を持たなかったんだ。

