「えっと……ど、どうかな?」



がっ君が用意してくれたドレスを見に纏い、がっ君の待つ控え室に入った。


ドレスを着たわたしを見つめて、がっ君は目をこれでもかと見開いている。



「……っ、さいっこうに可愛いよ」

「ほ、ほんと……?」

「ああ……っ、どうしよう、やっぱり他のやつに見せたくないな……」



「今日のパーティーは中止にしようか?」と、真剣に悩んでいるがっ君に、笑ってしまう。



「桜、今日は一日、絶対に俺のそばから離れちゃダメだよ。わかった?」

「ふふっ、うんっ」



婚約パーティーの当日。

準備も全て終え、がっ君ママから教わった受け答えも頭に叩き込んだ。

会場に出るまで、後数十分も無い。



「はぁ……緊張してきた……」



今日、わたしは正式に、がっ君の婚約者として認識されるんだ。

『京極牙玖』の、婚約者だと。



本当に、いろんなことがあったけど、

これからもきっと、いろんなことがあるんだろうけど、

わたしはこの人の隣で、ずっと一緒に生きていく。



「大丈夫だよ。桜は俺の隣にいるだけでいいって言っただろう?」

「そういう訳にもいかないよっ……ちゃんといろんな人と話して、好印象を与えなきゃいけないわよってがっ君ママも……」

「……あいつがそんなことを言ったの?……ちっ、あのクソババア……桜は今日は、喋るの禁止ね」

「えっ?ど、どうしてっ……」

「ただでさえ可愛いのに、桜の小鳥のさえずりのような可愛い声を聞いたら、他の男が放っておかないだろうッ……!」

「……がっ君……」



か、考えすぎだよ……。



「とにかく、他の人間と話すのは禁止だからね。もし他の男と話したりしたら、浮気だよ?」



会話するだけで浮気になるなんて、ちょっと厳しすぎないっ……?

せっかく話す話題もたくさん考えてきたのに……。



「わたしが浮気したら、どうするの?」

「その時は……心中するしかないね」



笑顔でそんなことを言うがっ君に、苦笑いを返す。

がっ君が言ったら、全然冗談に聞こえない。



「心中……あはは……」

「え?本気だよ……?何度生まれ変わっても、俺は桜を捕まえるから」

「ふふっ、こわーい」

「そんな酷いこと言わないで。俺から逃げようなんて、思わないでね?」



後ろからぎゅっと抱きしめられて、背中から伝わる温もりに身体を預ける。

がっ君の腕に手を添えて、ぎゅっと力を込めた。



「それじゃあがっ君は……ずっとわたしのこと、捕まえててね……?」



重たいくらいの愛の鎖でわたしを縛って。



「ハァッ……かわいい、目眩がするよ……」

「が、がっ君、鼻から血が……っ」



かっこよくて、優しくて、頼りになって……

たまに鼻血が止まらなくなったり、興奮して鼻息を荒げたりしちゃうところもあるけど、


わたしにとって、あなた以上にかっこいい人なんていない。



だって貴方は、わたしだけの……


ーー愛に狂った、王子様。





【 君は狂った王子様。】

-完結-





ここまで読んでくださり、ありがとうございました…!
また後日あとがきの方書かせていただきます!