「一ノ瀬。
 一ノ瀬」

 誰かが私の名を呼んでいる、と紬は目を開けた。

 世界史の谷沢が自分を見下ろしていた。

「一ノ瀬、お疲れのようだな」

 ああ、授業中か。

 最近、あのふかふかのフェルトどもに懐かれて、毎晩、人形を作らされているからな、と思う。

 あの声だけイケメンの王子と、声だけ渋い将軍に急かされながら。

 規定の時間内に陣地に入って準備を始めたら、彼らはもう外に出てはならないらしく、王子の本体は一度も拝んだことはない。

 涼やかな風の吹く木の下で、チクチクと胴体を作っていると、暇なのか、王子がウロウロしていたので、

「ちょっと訊いてみるんですが、王子は格好いいんですか?」
と訊いてみた。