玲奈(れな)、おはよ」

駅から高校に向かって歩いていると、後ろから声を掛けられた。

振り向くまでもない。

私に声を掛けてくる男子なんて、1人しかいない。

「おはよ」

私は、(とおる)に挨拶を返す。

私は、この春、自宅からは少し遠く、中学の友人が1人もいない高校へ進学した。

そして、そこには偶然にも幼馴染みの徹がいたのだった。

幼馴染みとはいっても、家が近所なわけじゃない。

私は、3歳からバイオリンを習っているんだけど、その同じ先生に習ってるのが徹なのだ。

私たちは、幼い頃から弦楽二重奏などで一緒にステージに立つこともあり、自然と仲良くなった。

いや、違う。

人見知りでまともに会話できない私に、人懐っこい徹が目一杯話しかけてくれたから、仲良くなれたんだ。

私の人見知りは、高校生になっても治ることはなく、入学して3ヶ月経った今も友達らしい友達は1人もいない。

毎日、バイオリンの練習のために部活動をすることなく帰る私は、部活動で友人を作ることもない。

教室でも読書か勉強をして過ごしているので、友達なんてできるわけない。

でも、その方がありがたい。

私は1人でいる方が気楽なんだから。