-----綺麗な女だった。



 我儘で、少し気の強いところはあったけれ
ど、しっかりとした自分の考えを持っていて、
恋人としても、同僚としても、最良のパート
ナーだった。彼女となら、一生やっていける。

 そう信じて、“不変の愛”を誓った結婚は、
わずか8カ月で破綻した。

 離婚に至るほどの決定的な理由があったわけ
では、なかった。

 強いて言うなら“性格の不一致”。

 一番漠然とした、けれど、もっとも離婚の
理由として多いものだ。

 どの夜から眠れなくなったのかは、もう覚え
ていない。仕事に疲れ、結婚生活に疲れ、疲れ
た身体をベッドに沈めても、頭の中はくっきり
したまま、やがて眠りは訪れなくなった。

 身体は限界に達し、いつしか人生が辛くな
り、気が付いた時には、俺は心療内科に足を
運んでいた。



----似ている、かも知れないな。



 久々に思い出した妻の顔と、ゆづるのそれが
重なる。顔の造りはゆづるの方が繊細で、整って
いる。けれど、線の細い身体つきや長い髪、
睫毛の長い双眸は同系列のものだ。

 もしかして、俺は無意識のうちに妻の面影を
求めているのだろうか?

 そんなことを思って、俺はゆるりと首を横に
振った。そうして、キッチンを出て寝室へ戻る。

 枕元に立って尚美を見下ろせば、彼女は鼻先
まで布団に顔を埋めて、気持ち良さそうに寝息
を立てている。その彼女の隣に重い身体を沈め、
夜が逃げていく感覚を朝まで味わうのも辛かっ
た。俺は何とはなしに、ひやりと冷たいベラン
ダの窓を開けた。
 ベランダの柵に背を預け、窓の外から部屋
を見やる。涼やかな夜風が前髪を撫でてくれて、
心地良かった。

 明日こそは会えるだろうか?彼女に。

 それとも、もう、このまま会えないのだろ
うか?まるで、初恋のように胸が痛んで、頬を
緩める。もし、会えたとしても“何か”が始まる
保証は、何もない……

 俺は大きく息を吸って、目を閉じた。



-----やはり、この夜もまた、眠れなかった。