Diary ~あなたに会いたい~

 「やっぱり」

 「え?」

 何が“やっぱり”なのか、意味がわからずに
弓月の後ろに立って、部屋を見渡す。

 昨夜から降り続いている雨のせいで、外に
干せない洗濯物がカーテンレールにかけられて
いること以外は、普段と別段変わらない。

 僕は弓月の肩越しに話しかけた。

 「やっぱり、って?」

 「想像してた通り、すごく片付いてるから。
やっぱり、って思って」

 くす、と、振り返って弓月が肩を竦める。

 「そっか。僕って部屋が片付いてるイメージ
なんだ。几帳面、に見えるのかな?」

 決して悪い意味ではなかったことに、ほっ
としながら、聞いてみる。
 すると、弓月は頷いて、また前を向いた。

 「うん。すごく真面目で、優しくて、几帳面
で。だけど、その事で相手を疲れさせないよう
に、いつも気遣ってくれてる」

 思いもよらぬ高評価に一瞬、僕は戸惑ってし
まう。誰かから、こんな風に自分を褒めてもら
ったことは、ない。嬉しいやら、照れくさい
やらで、どう答えていいのか、わからなかった。

 けれどそんな僕に、弓月はさらに嬉しいこと
を言ってくれる。

 「そういうところが、好きだから」

 どんな顔をして、言ってくれたのか……

 僕には見えなかった。

 だから純粋に、弓月の顔が見てみたくて、
僕は肩に手をかけて、振り向かせた。僅かに、
弓月の肩が震える。けれど、僕を見つめる眼差
しは揺れることなく、僕を「好き」だと言って
くれている。

 僕はごく自然に、彼女の唇にキスを落とした。
 柔らかく唇を覆って、そっと舌で唇をなぞる。
 カサ、と、部屋の隅に置いたビニール袋が、
小さな音を立て、弓月の手が僕の肩を押した。

 「ご飯、作らなきゃ」

 僕から逃れるように、弓月が顔を背ける。
 僕は彼女の肩を掴んだまま、部屋の時計を
見た。時刻は11時を少し回ったところだ。

 お昼にはまだ、早すぎる。

 「まだ、お腹空いてないから。後でいいよ」

 擦れた声でそう言うと、弓月を抱きしめた。