Diary ~あなたに会いたい~

「では、率直に言いましょう。この交換日記は、
どちらも弓月さん自身が書いたものだというこ
とです。あなた方はDID、解離性同一性障害と
いう病をご存知でしょうか?多重人格障害、
という名の方がわかりやすいかも知れません。
信じられないかも知れませんが、弓月さんは
その当事者なのです」

 一瞬、室内が静まり返った。

 けれど数秒の後、僕は「は?」と声を漏らして
いた。耳から入った言葉を頭が理解した瞬間に、
冷たい汗がどっと額に浮かぶ。

 心臓は痛いほどに早鐘を打っていて、急激に
渇いてしまった喉から、僕は声を絞り出した。

 「まさか……そんな、はず……ありませんよ。
だって、僕はずっと、毎日、弓月と一緒に」



-------いたんです。



 そう、言おうとした時、僕の視界の片隅で、
誰かが首を垂れた。

 ギギギ、と、硬直した首を動かしてその人物
を見る。永倉恭介の、斜め向こうに座っていた
父親が、がくりと首を垂れ、片手で額を覆って
いた。

 僕はその様子を、信じられない心地で、
ただただ、凝視した。

 父親は顔を上げようとしなかった。

 「あなたは、ご存知だったんですか?あまり
驚いてはいないご様子ですが」

 放心状態の僕の隣に座るその人に、小林医師
が訊ねる。彼は、いえ、と一度首を振り、落ち
着いた様子で答えた。

 「知りませんでした、何も。ただ、偶然とは
いえ俺は“二人”に会っています。とても、彼女が
ゆづると他人とは思えなかったし、だから声を
かけた。きっと、双子か姉妹なんだろうと。
でもさっき、病室で先生が気になることを言った
んです」

 「私がですか?」

 「はい。先生は、俺たち“二人が”何も知らない
まま、弓月さんと関わっていくことはできない、
と。でも俺にとって弓月という女性は、ついさっ
き会ったばかりの他人です。いったい、どういう
意味なんだろうと」

 「なるほど」

 「そう考えていたところに、ゆづるもあなたの
患者だと聞いて、まさか、とは思っていました。
でも、二人が同一人物だという事実にはショック
を受けてますよ。しかも、弓月という女性には
恋人がいるらしい……」

 複雑な表情で肩を竦めた永倉恭介に、小林医師
もまた渋い顔で頷く。僕は混乱しきっていて、
とても事実を受け止める余裕はなかった。

 それでも、永倉恭介という存在を、初めて“男”
として意識することはできた。