俺は嘘を吐いた。
 時に真実はさらに残酷な結果を持たらすから。

『ミアに謝りたい』

 アイリスの本当の母上、キャンベル夫人は言っていないのだ。
 ただ、こう言っただけ。

『アイリスに会いたい』

 それがミアを指すのか、それともアイリスを指すのか、今さら知る必要はないだろう。
 その事実が全てというだけだ。

「どうやってミアに近付いた?」

「あの子はね、使用人らしき女と馬車で村に現れた。 馬車を降りた後は使用人に傘で陽射しを遮られながら、お母様へのプレゼントを選んでいたの。 きっといつかまた、あの子は現れるだろうと期待していたから、その時は怒りも何も感じなかった。 ただ、高価で綺麗なドレスを着て、当たり前のように欲しい物が買えるのが羨ましくて妬ましかったのよ。 当時の私は六歳よ? そんな生活をした事もないのに、同じ顔をした同じ六歳のあの子だけがどうしてできるの?」

 今までなら甘えられたはずの親への拒否感で、アイリスは内なる思いを誰にもぶつけられなかった。 そして、それがミアへの牙となって向いたのだ。

「神様が私に味方してくれたのだと思った。 知ってるかしら? 他国からの行商人が突然来なくなった事。 当時はそういう人達が来なければ、なかなか小麦すら手に入らない事もあって、村ではその煽りから物の値段が高騰していたの。 その原因がどうやら国の政策で、他国からの立ち入りを制限していた事にあったらしいのね。 そこへ急な方向転換で制限が解除よ。 他国から訪れる人が増えたわ。 村にも行商人がやって来て、村人は大勢集まって来た。 そんな事なんて何も知らないあの子は大勢の村人に揉みくちゃにされて、使用人とはぐれてしまったの。 遠くから一部始終を見ていた私は走ったわ。 あの子の手を無言で取って、誰も居ない村外れの寂しい場所へ」

 アイリスは淡々と話を続ける。
 まるで自作の物語でも聞かされているようだ。