「キャンベル男爵にお会いして来たよ」

 アイリスの表情がない。
 そこから見える感情も何も伝わって来ない。

「違和感の正体を知りたくてね」

 応接間の隅で静かに立つジョージを目で確認して、大きく息を吐く。

「数日前まで俺はジョルジュの仕事を手伝いながら君とも過ごした。 そこで君はおかしな事を言ったね」

「何かしら」

「これで私も安泰だわ、と」

「いけなかった?」

「おかげで、妙な事を言うものだと疑惑が俺の中で沸き上がったよ」

 アイリスの顔から表情が完全に消えた。

「君は女中相手にこうも言ったそうだね。 俺の子を宿せば王族の仲間入りができる、と」

 ジョージが一瞬だけ身動いだが、俺は目で制した。

 確かに俺の父上は王家出身で、国王は俺の伯父だ。
 父上には元々、三人の兄がいたらしいのだが、二番目の兄が病で亡くなり、三人兄弟となった。 前王が亡くなり、一番上の兄である現在の国王がその後を継いで、三番目の兄や父上は結婚して相応の爵位を得、独立した。
 もちろん、重要な役職にも就いている。
 俺自身も将来的には父上の後を継ぐ事になるだろう。

 だが……。