「だとして、ジョルジュはどうするつもりだ」

「彼なら大丈夫よ。 私の事が好きで好きでたまらないのだもの」

「そういう問題ではない!」

 ヌルヌルに泡立てた石鹸相手に話をしているようで、なんとも気持ち悪い。

「どうしたの、カークス? そんなに怒るなんて変よ?」

 アイリスはティーカップをテーブルに置くと、俺の側に来て頬に手をかざそうとする。

 その手が肌に触れそうになった瞬間だった。
 俺の中で、わけのわからない虫酸が走ったのだ。 それが嫌悪だと気付いて、激しくはね除けた。

 あぁ、やはりそうなのだ。

「俺が馬鹿だった」

「貴方の事を愛しているのよ」

「俺が愛しているのはメリルだけだ」

 途端、アイリスの顔から表情が消えた。
 まるでそこから切り取ったように。

「私を求めた貴方がそんな事を言うなんておかしいわ」

「あぁ、君を欲しいと思った俺は世界一の愚か者だ」

 アイリスの顔が醜く歪んでいく。
 そうだ、その顔を待っていた。

「アイリス嬢、君に聞かねばならない事がある」

「何かしら」

 俺は大きく息を吸い込み、そして吐き出して言った。

「君はアイリス嬢ではない」

 彼女は答えない。
 まるで、だから何だと言うの、とでも言いたいようだ。

「君の本当の名はミアだ」

 アイリスという名の女は聖女の笑みで、そっとお腹に手を当てた。