ベネット子爵邸を後に、すぐさま馬車に乗った。

 本当は今からでもメリルのいる別荘に行きたかったが、何せ距離がある。
 以前何度か立ち寄らせてもらったが、気候が良くて療養するにはピッタリな場所だ。

 子爵の話ではメリルの体調は酷いものではなく、命に関わる事はないという。
 ただ、父親としては静かに過ごさせてやりたかったのだろう。 いつ帰って来るかわからない、文すら届かない俺を待つよりずっと心の安定が保てる、と。

 俺はどれだけ謝罪しても後悔しても、取り戻せない宝物を壊してしまった気がする。

 帰り際、ベネット子爵が言った。

『メリルはね、君が彼女とどのような関係になったとしても受け入れる心の強さを持っていたよ。 おそらく今も、ね』

 君自身が見て来たものが真実なのか確かめなさい、そうも言った。

 メリルとやり直したい。
 もう一度、初めて出会ったあの頃のように。

『君のこれからを見させてもらう。 その上で婚約破棄するかどうかを検討する』

 ベネット子爵の最終通告だ。

 これからの俺の行動次第で何もかも失うか、或いは……。