「ウォーカー君、間違いは誰にでもあるものだ。 私とて一度も間違えなかったとは言わない。 だがね……」

 ベネット子爵は苦悩を噛み締めるように大きくため息を吐いて言った。

「悪いのは私も同じなのだよ」

「ベネット子爵?」

「私は怒りに任せてメリルに言ったのだ。 女中から聞いた君の行いをね」

「メリルのお父上ですから……」

「メリルは言ったのだ。 こうなる事はわかっていた、と」

「メリル、が?」

「アイリス様の幸せを願った私への罰なのです、そう言ってメリルは倒れたのだよ……」

 メリルが倒れた、その言葉を聞いた俺は瞬間的に立ち上がり、そこから出て行こうとした。

「ウォーカー君、待ちたまえ。メリルの居場所はわからないのだろう」

「探します、行きそうなどこか……。 早くメリルの元に行かないと」

 おそらく放心状態だったのだ。
 メリルの行きそうな場所なんてわからない。 何もわからないのに。
 それでもじっとなんてしていられない。
 もう迷いは存在しなかった。

 どうしてなのだろうか。
 夢から覚めたような気がする。 自分のものではなくなっていた意思が甦って来たような気がする。

「私はね、父親なのだよ。 父親にとって娘は命より大切で、そして幸せになってもらいたいのだ」

「私とメリルは運命で結ばれています。 絶対に私が……」

「メリルは別荘にいるよ。 そこで、療養を兼ねて静養している」