ベネット子爵家を訪れる度に、ポーチに立つ執事他使用人の出迎えを受ける。
 それがいつもの、日常風景だった。

 なのに、今日はそれがどこにもない。
 執事がそこに立っている以外、子爵邸はひっそりと静まり返っているのだ。

 馬車を降りると、玄関ポーチで執事が深くお辞儀をする。

「カークス様、事前の連絡も無しに……」

「すまない、突然の訪問を許してくれ」

「はぁ……それよりも、お久し振りでございますね」

「今日は用件があって来たのだ」

「少々、お待ち下さい」

 いつもなら何も言わずにすんなり通すのに、今日は馬車を背に玄関ポーチで待たされている。

 執事の態度自体はいつもと変わらなかった。 感情を隠しつつ、主に支える姿そのものと言える。

 ただ、何かが明らかに違っていた。
 俺を取り巻く雰囲気が拒否しているように見えるのだ。

 五分、十分……。

 しばらくそのまま待たされた俺は、徐々に苛立ちを隠せなくなってきた。

 許可も無く、勝手に足を踏み入れるわけにはいかない。 だからといって大声で誰かを呼ぶわけにもいかない。
 とにかく苛々して仕方ない。

 ベネット子爵家はウォーカー伯爵家より格下の身分のはずだ。
 それなのに、こんなにも待たせるとはどういうつもりなのだろう。

 すると、ようやく中から出て来たのはベネット子爵本人とさきほどの執事。

「ウォーカー君、こんな朝早い時間に失礼ではないかね?」

 いつもなら俺をそうは呼ばない、親しみを込めてカークス君と呼ぶのだ。
 それは俺を他人だと拒絶する意思の表れに思えた。