『その魔術師を魅了した女、どうやら俺達の知ってる人間らしい』

『誰なんだ?』

『それが……』

 ジョルジュの口から語られた名前はとても信じられず、怒りしか沸いて来ない。

『すまない、やはり言うべきじゃなかった』

『ふざけるな!』

 俺はソファーから立ち上がり、鼓動の早さと比例するように書斎をぐるぐると歩き回った。

『家の女中にヒューゴと面識のある者がいるんだよ』

 こんなにも信じられない話をしているのに、どうしてジョルジュは表情を変える事なく淡々と続けていられるのだろう。

『ヒューゴと……?』

『その女中の話からわかった事だ。 メリル嬢はダビデを好きだっただろ?』

『あぁ……。 でも、メリルはそんな愚かな真似は絶対にしない』

『俺もそう思いたいさ……』

『メリルは子爵令嬢だぞ! 俺は絶対に信じない』

『答えずらい事を聞くが、昨日メリルとは閨を共にしたか?』

『それがどうした』

『魔術を使う時は満月の夜に受け入れるらしい』

『そんなの作り話だ』

『アイリスが夜も明けきらない明け方早くに言ったんだ。 変な夢を見た、と』