他愛もない話をしながら、ジョルジュの机上では書類整理が続く。
 俺はその近くのソファーに深く座って、カップに入れられたお茶を嗜む。

『実は弟が来年、寄宿学校に入る予定なんだよ』

『へぇ、もうそんな年なのか』

『俺達が入ったのと同じ年だぜ』

『妹の方はどうなんだ? 婚約者とか』

『実はさ、縁談の話が来てるんだ』

『ほぉ、良さそうなのか?』

『まだわからないな。 今は父上の健康面も考慮して保留だ』

『決めるなら早い方がいいぜ? メリルも同じくらいの年だったからな』

『メリル嬢は本当に素敵な女性だよな』

『俺には勿体無いくらいだ』

『全くだ』

 ふいにジョルジュと目が合って、どちらからともなく笑いが込み上げる。

『アイリス嬢だって、そうだろ?』

『アイリスは……』

 そこでジョルジュの言葉が途切れた。
 どうしたのか、とジョルジュの方に目線を移すと浮かない顔がそこにある。

『どうした?』

『俺はさ、アイリスが好きなんだよ』

 カップを持つ手にグッと力が入る。
 ジョルジュの告白は、相手が婚約者なのだから別にどうという事はない。
 好きな相手に秘めた想いを告げようかどうしようかというような話でもない。

 なのに、どうしてこんなにも憎らしく感じるのだろうか。
 自分が自分である事に、どうしてこんなにも虚しさを感じてしまうのだろうか。

『ずっとずっとアイリスが好きなんだよ、カークス』

 ジョルジュの持つペン先からインクがポタリと落ちる。
 それはまるで俺の醜い心を表しているようで、酷く腹立たしかった。 自分自身にもジョルジュにも。
 俺が手に入れられないものを手に入れているというのに。 それでもまだなお、思い悩む必要があるのか。

『どうしたらいいか、わからなかったんだ』

 ジョルジュは言う。

『それでも、アイリスを誰にも渡したくないんだよ』

 ジョルジュがその後に告げた言葉は俺を酷く混乱させた。