『アイリス嬢、久しぶりだね』

『はい』

 俺とジョルジュの髪色は一般的なブロンドだが、アイリスはわりとプラチナブロンドに近い色をしている。 髪を後ろで束ねているので、その髪が風に靡くとフワフワと肩で踊る。 なおかつ、優しい笑みを持つ瞳に引き込まれそうになる。

 言葉が出て来ない。
 夢の中のアイリスがそこにいるようで、現実感がない。

『カークス様、ようこそ遠い所をわざわざお越し下さいました』

 そう言うのはジョルジュの執事、アルトだ。

『やぁ、アルト』

『こうやって久々にお二人が並ぶ姿を拝見すると、子供の頃を思い出します』

 俺とジョルジュの子供の頃は背格好や顔立ち、髪色が似ていたせいか、よく間違われていた。
 違うとしたら、俺の方が瞳の色が薄い緑でジョルジュの方が濃い緑、といったところだろうか。
 ただ、このアルトだけは間違えなかったので、俺達は服を交換して入れ替わった振りをした事がある。 そうすれば、アルトが俺とジョルジュを間違えると思ったのだ。
 ところが、それでも間違えない。
 むしろ、軽く笑われるくらいだった。

『カークス、到着して早々で本当にすまないが』

『あぁ、とにかくヘンダーソン伯爵の御見舞いに行きたい』

 俺はアルトに荷物を預け、ジョルジュと二人で馬車に乗り込んだ。
 邸内に足を踏み入れるのはその後だ。
 アルトとアイリスが玄関前で馬車を見送る。

 ひと息吐きたくなかったのだ。
 でなければ、アイリスの側を離れたくなくなる。 そして叫んでしまいたくなる。

『アイリスは俺のものだ!』

 ジョルジュと二人の仲を壊してしまいたくなる。 全てを壊して、アイリスをどこかに拐いたくなる。