彼女が言った。

『カークス様、私は先月より子を宿せる可能性のある身体になりました。もう子供ではありません』

『メリル、はしたない発言はよせ』

『ですが、私達は来月には正式に婚約するのですよ』

『だが、君には想う男がいるだろう』

『それは貴方様も同じでしょう?』

『そう思うなら……』

『男爵家のご令嬢、アイリス様……でしたわね』

『あぁ』

『私は構いません』

『メリル、だが……』

『私をアイリス様の代わりだと思って下さればよろしいのですよ』

 隣室の婚約者の部屋と俺の部屋とはドア一枚で繋がっている。

 ある日、寝入る準備を済ませてベッドに入ろうとした時だった。
 ふいに、メリルが俺の部屋をノックして訪れたのだ。

 普通なら、婚姻前の令嬢がこのような振る舞いと発言はあまりに不作法で淑女らしらかぬと眉をしかめる場面だ。

 ところが、俺は何も言えなかった。

 メリルの、その切羽詰まった態度と素肌が透けて見えそうになる寝間着に意思の強さを感じたからだ。

 そして、言ったのだ。
 いや、言わせてしまった。

『お願いです、私を抱いて下さい』

 俺はメリルを抱き締めずにはいられなかった。