カークス様がジョルジュ卿の邸へ行ってからというもの、ただの一度も文が届かないというのはどう考えてもおかしい。

 ヘンダーソン伯爵の具合についても、ジョルジュ卿の仕事についても、いつ頃には戻るという知らせについても、全くの知らせ無しなのだ。

 メリル様はカークス様が馬車で発ってから最初は気分転換に読書したり、刺繍したりして過ごしていらっしゃった。 或いはお友達を呼んで茶会を開いたり、呼ばれたり。

『私、お菓子を作ってみたいわ。 カークス様が帰って来た時に手作りのケーキで喜ばせたいの』

 メリル様から侍女にお願いしたというそれは、侍女から私へと伺いを立てられた。
 その話は厨房への立ち入りとシェフへの気遣いによるもの。

 そしてメリル様が作ったのはスコーンとアップルパイだ。

『ずっと作ってみたかったの』

 それはとても楽しそうに、粉まみれになりながら失敗を重ね、何度も挑戦していた。

 私も幾つか失敗作を食べさせて頂いた。
 美味しいものもあれば、甘さの足りないものもあったりと、なかなかに味わい深いお菓子ではあった。
 そして完成したお菓子はシェフのお墨付き。

『メリル様には才能があります』

 お世辞付きではあるが、それだけではない。 本当に心がこもっていて美味しかったのだ。

 でも五日ほどが過ぎると、それも徐々に減っていった。
 それと共に溜め息の数も増えて。