あれから五年。

 一年前に寄宿学校を卒業して、子爵邸を構えた。
 伯爵様はまだまだお元気だ。
 カークス様が伯爵位を継ぐ事になるのはずいぶん先の話になるだろう。
 それでも伯爵様の手助けをし、次期国王となられる現王太子様の良き側近となるように励んでおられる。

 そしてメリル様も、やはりカークス様の後を追うように子爵邸に戻り、良き妻となるべく励んでいる。
 短い期間ではあったものの、寄宿学校での経験は掛け替えの無い宝物になった事だろう。

 私はそんな若いお二人の側で見守るのが、先の短くなった唯一の楽しみだ。


☆ ☆ ☆


 なのに……。

 ヘンダーソン伯爵の御見舞いと、ジョルジュ卿の助けの為に向かったのが十日前。

 そろそろお戻りになるだろうかと文を待っているのに一向に届かない。
 メリル様も一度も届かない文とお帰りにならないカークス様を想って浮かない顔をしている。

 メリル様がどれだけカークス様に尽くしているか、何故気付かないのだ。
 あれほどの方は他にいないというのに。

 私はジョルジュ卿のあの婚約者が嫌いだ。

 カークス様は何故あのような者に惹かれるのだろうか。
 王族の血を引く人間が一代限りのあんな男爵令嬢に。

 いったいどうしたというのだ。
 何故、お戻りにならないのだ。

 カークス様……。
 メリル様の美しいお顔を涙で濡らすのはお止め下さい。