ジョージにはお茶の相手をして欲しいと言った。
 ところがジョージは、それはどうしても出来ないと言って譲らなかった。 だからソファーに座る彼の前にはティーカップはない。

 本当に私の話を聞くだけの態度だ。
 それが逆に安心するのは何故だろうか。
 今まで誰にも話した事のない想いを打ち明けているからか、聞いてくれている態度が嬉しかった。

「でもね、愛されたいと思うのはいけないかしら。 彼の心が欲しいと思うのは」

「では何故、カークス様お一人で行かせてしまわれたのですか?」

「アイリス様にもお幸せでいて頂きたいの」

「ですが……」

「そうでなければ不幸だもの。 カークス様の心を曇らせたくないもの」

「メリル様はお優し過ぎます」

「カークス様は帰っていらっしゃるかしら」

「えぇ、もちろんです。 ですが……」

 その言葉の続きは聞こえて来ない。
 いや、私が聞きたくなかっただけかもしれない。

 ジョージが不意に立ち上がった。
 そして静かに私の目の前のティーカップを下げる。

「お茶が冷めてしまいましたね。温かいお茶のお代わりをお持ちして参りましょう」

 応接間に一人になった。
 シンと静まり返る。

 ジョージはとても出来た執事だ。 彼の機転のおかげで、見られなくてすんだ。
 溢れて来る涙など、誰にも見せたくない。
 私の想いに気付く事のないカークス様にも。

 もう、私の元には戻って来ないかもしれないのだから。