誰かの声が心臓に伝わって来る。
 意識が朧気なのに、鼓動は早くなる。
 私の身体が拒否したがっている。

 聞いた事のあるようだ。
 それでも誰かのその声には逆らえない。

 誰……? カークス様?

『メリル様、ごめんなさい』

 静かで穏やかで、まるで頬を優しく触れていく風のような、そんな声。
 確かに申し訳ありませんと謝っているようなのに、か細くも罪悪も感じない。
 それでいて、泣きそうなのだ。

『どうしても欲しいのです』

 何故、そんなに悲しそうなの……?

『手に入らないのです』

 何故、そんなに辛そうに私に話し掛けるの?

 その声の主はベッドに横たわる私を見下ろしているようだ。
 誰なのか、姿を見たいのに遠い意識がそうさせてはくれない。
 まるで夢の中で話し掛けられている感覚。

『貴方が手にしているから』

 不思議な気持ちだった。
 この心地良い怠さと相反しての夢の中の声。
 私が手にしているという、その何か。
 手に入らないという、悲しそうな声。
 心地良い表情をした私をそんな辛そうに見下ろして見ないで、そう思った。

『ごめんなさい』

 その声が徐々に消えていく。

『あの方が欲しいのです……』

 夢に埋もれながら、意識は耳をも塞いでいく。
 もう、何も聞こえはしなかった。