ここは伯爵家の嫡男カークス様の屋敷だ。

 彼は次期伯爵で長男の立場から、今はまだ子爵の身である。
 そこで実家の伯爵邸を出て、新たな子爵邸を構えたのが寄宿学校を出た後。
 婚約者の私も以前は伯爵邸に住んでいた。
 新たな邸を構えるとなると、当然の如く子爵邸として移り住む事になる。

 そこで問題になったのが執事ジョージの存在。
 ジョージはあくまでも、伯爵家の執事だ。
 カークス様を小さい頃から世話して来たとはいえ、雇っているのは伯爵自身。
 個人的理由でカークス様の専用執事に変わるというのは伯爵が認めない。
 例え、ジョージ自身が望んだとしても。

 苦肉の策で出された案が、カークス様の専用執事をジョージ自ら育てるというもの。
 今はまだ執事見習いの使用人がいるものの、ジョージのような一人前の執事にはほど遠い。

 子爵邸に移って来たジョージは厳しさと愛情を持って、次期伯爵の信頼に足る執事を育てる毎日だ。