私は魔術師に会いに行った。
 ジョルジュにはキャンベル家に行くと伝えて。 信じたかどうかはわからないが、考える余裕はなかった。
 だから満月の夜だったのは気付かなかった。

『カークス様の子はできなかったわ』

『当然だろう、それが運命なのだから』

『では、貴方の言う対価とは何ですの?』

『それを今から頂くのだ』

 あの魔術師の言う対価というのは、もしかしたらそういう事だったのだろうか。

『見た目がそなたの夫に疑われる事はないだろう』

 そう、あの魔術師は私の中に魔術そのものを授けたのだ。
 憎らしい、このお腹を蹴ってやりたい。
 なのにそれでも、身体中から感じるこの喜びは隠しようがない。

「アイリス、身体は冷えてないか?」

「えぇ、大丈夫」

「春とは言ってもまだまだ寒い。 大切な身体だからね」

「もちろんよ」

 ジョルジュは心から愛してくれている。
 きっと産まれて来る子はジョルジュによく似ているだろう。
 その子が魔術を持って出て来る事など、彼は何も知らずに。

 それでもいい。 私は全てを受け入れる。
 これが私の運命なら、この子の運命もまた逆らえない。
 私は男爵家の令嬢だ。 アイリスだ。
 アイリスとして、ジョルジュを愛して行くと決めたのだ。