私がここに来てしばらく後、カークス様が訪れた時の事。
 初めてかもしれない、お互いの気持ちを打ち明けたのは。

『帰りをお待ちしていると申しましたのに、私はそれが出来ませんでした』

『俺が君を待っていたいのだよ』

『私の体調が優れないのはおわかりでしょう?』

『俺の婚約者は君以外にいない。 この先もずっと』

『カークス様の幸せを第一に考えて頂きたいですわ』

『同じ事を君にそのまま言うよ』

『私とカークス様の間に絆を築く事は出来るのでしょうか?』

『ずっと当たり前だと思っていた。 メリルがいつも側にいて、いつか夫婦として生きて行く存在なのだと』

『私もです。 幼い頃に互いの生き方を決められて、それを疑った事は一度もなくて。 ところが寄宿学校でダビデとミアの強い意志を見た時、私はとても羨ましく憧れました。 そしてもしかすると、カークス様もアイリス様とそんな生き方をしたいと思っているのではないか、と。 そう思ったら私に出来ないのがとても悔しくて悲しかったのです』

『ダビデと結ばれないのが悲しいのではなかったのだね』

『私はカークス様以外をお慕いした事はございません。 恋を知らなかった私が勘違いしたとしても、自分の立場は自覚しております。 だからこそ二人の結婚が嬉しかったし、喜んだのです』

『メリル、俺は本当の事を言うと妬んでいたのだよ。 君をそんな風に強く感じさせるダビデという存在が。 そんな時だった、君とは正反対のアイリスに惹かれたのは』

『カークス様は私を誤解してらっしゃるわ』

『そうだね。 うん、そうだったね。 俺はアイリスを通してメリルを見ていたのだろう』

『今もそうなのですか?』

『俺はずっとメリルに恋していた。 同時に、今まで与えられた環境の中で何も疑問に感じる事なく生きて来た。 だからメリルが婚約者なのもメリルとは違うアイリスの魅力についても考えなかった。 ようやくメリルへの想いに気付いたのは、君が俺の側からいなくなってしまってからだ』

『私はもう少しこのままでいたいのです』

『婚約破棄は絶対にしないよ』

『私は貴方の側にいてもいいのでしょうか?』

『待っているよ』

 カークス様はそれだけを言い残して、帰って行った。
 いつか以前のように、彼の隣にいられる日が来るだろうか。