「メリル様、身体の具合はいかがですか?」

 椅子に腰掛け、お茶とアップルパイを楽しみながら暖炉の前で本を読んでいると、居間の戸口の方から声がした。

「あら、先生」

 にこやかな笑みと診療鞄が代名詞のような人物。 それは、いつも私の診察をして下さる先生だ。

 年配のどっしりした落ち着きのある男性で、実はスコーンが大好物。
 ならば、私の作ったスコーンも食べて下さるかしらと黙って差し出したら喜んで平らげていた。
 それ以来、先生が診察の為に訪問に来る時は必ず用意しているのだ。

 先生は執事にコートと帽子を預けている。

「今日は先生がおいでになる日でしたの? 私、うっかり忘れていたのかしら」

「いいえ、近くに患者さんが引っ越しましてね。 ついでで申し訳ないが、ちょっとメリル様の顔を見に寄らせて頂きました」

「まぁ、そうでしたのね」

 ハンナにお茶とスコーンの準備をするように言い付けた。

「少しずつ寒くなって来ましたから、厚手の羽織る物が欠かせなくなりますよ」

「えぇ、ハンナがいつも用意してくれるので助かります」

「うん、お顔の色も変わらずに良さそうですね」

 先生は私の顔色や目、口腔、首回り、心の音等を確めつつ、言った。