「メリル様」

 背中越しに掛けられた声の方に振り返ると、執事のジョージが穏やかな顔立ちで立っていた。

 カークス様を見送る時、彼の居場所は私から少し離れた後ろ。
 決して余計な口出しをしない、黙ってカークス様からの言葉を待つだけだ。

 そんなジョージを信頼するのはこの家の主として当然の事。

「応接間にお茶をお持ちしましょうか」

「もう、そんな時間なのね」

「とびきり美味しい茶葉が手に入ったので、ケーキと一緒にいかがですか?」

 ジョージはわかっているのだ。
 私が今、泣きそうな気持ちを隠している事に。
 貴族令嬢として感情や表情を隠すのには慣れていても、ジョージの前では隠し切れていなかったらしい。

 あぁ、もう……。

 執事の立ち姿は流石で、どれだけそこに立ち続けていたとしても平気な顔をする。

 そして私を慮って、静かに言うのだ。

「メリル様の一日が長く感じるか短く感じるか、ここは私達使用人の腕の見せ所です」

「でしたら、ジョージがお茶の相手をしてくださる?」

「私のような者が、お茶の相手などいけません」

「いいのよ。 貴方はカークス様が誰よりも信頼している人だもの」

「ですが、使用人とでは立場が違います。 同じテーブルに着くなど」

「一人ではつまらないもの。 それに話を聞いて欲しいのよ」

「メリル様……」

「カークス様のいない椅子に向かって話すのは悲しいわ」