私は幼い頃からカークス様だけを想って来た。
 時が来れば正式な婚約をして、いつか結婚して二人の愛が結ばれていくものだと。

 ところが、カークス様の想いがアイリス様へと向いているのだと気付いた時、私には揺れ動く感情より確かなものが存在した。

 カークス様の幸せが私にないのなら、その先の向こう側で幸せを祈ればいい、と。
 私にとって変わらずに存在するカークス様への愛は、失われる事がないから。
 だからカークス様を失ったとしても、私の想いは変わらずに生き続ける。
 それでいいのだと思った。

 ところが、お父様の訪問を受けて私の考えは脆く崩れ落ちたように見えた。
 こんなにも私は儚い人間だったのだろうか。

 お父様が言っていた。

『メリル、お前はまるで薔薇だね。 深い血の色をした赤い薔薇だ』

 それはカークス様への想いと同じ。
 一途に愛し続け、私の奥に咲き誇るのだ。