「メリル様、もう夕方です。 そろそろ屋敷内に入りませんと身体が冷えてしまわれます」

「そうね」

 広い庭園が挑める屋敷のテラスにはテーブルと椅子以外、何もない。
 そこは庭園から続く階段上にあるので、そのまま奥の居間に移れば屋敷内に入れる。

 今の季節は肌寒く、ついこの間まで暖かった同じ時間帯でも随分と体感が違う。
 侍女が肩に厚手のショールを掛けてくれていたのに、それでも寒さを一旦感じれば途端に物足りなくなる。

「もう、そんな季節なのね」

 カークス様のご実家である、ウォーカー伯爵邸の庭に咲いていた可憐な花々のように色取り取りの種類が咲いているわけではない。
 庭師が丁寧に剪定した緑の木々がアーチ状に並んでもいない。 どこまでも続いていきそうな、なだらかな芝生。 庭園の真ん中には池があり、その中心部を高く突き上げる噴水。

 特に何もない、絵画の世界にもならないような光景。
 そんな庭園が昔から私のお気に入りだった。