婚姻が間近に迫る、ほんの一ヶ月前。
 あの魔術師が私の願いを叶える術を授けてくれた。 赤い満月の夜だ。

 ジョルジュの私を想う愛が強く、揺れる事はないとわかっていたから少しだけ利用した。 そしてカークスに偽りを語る事で、私への不変の愛を心に刻んだのだ。

「ジョルジュ様、起きて」

 横たわり、眠る彼にそっと声を掛けると、うっすらと目を開けた。

 最初に目に映るものが私だという事実がどうしてこんなにも喜ばしく思えるのだろうか。
 愛した事はないと思っていたのに。

「ジョルジュ様、こんな風に寝ていてはいけませんわ」

「アイリス……」

 彼はぼんやりと私を見つめ、そして窓の明るさを確かめるとゆっくり身体を起こした。

「眠れなくて」

「ごめんなさい、ジョルジュ様。 キャンベル家に戻っていましたの。 早く帰って来るつもりがこんな時間になってしまいましたわ」

「そうか」

 そう言って、静かにぼんやりと目を落とした。
 おそらく気付いているはず、私の嘘に。

「帰って来ないかもしれないと思っていたよ」

 私はソファーに座るジョルジュの隣に腰掛けた。

「ジョルジュ様、もうすぐ私達は夫婦になりますのね」

「あぁ……」

「私、良い伴侶になってジョルジュ様を支えますわ。 貴方の妻として」

「アイリス、君は……」

「私の婚約者は貴方ですもの。 これからの歩む道は二人で」

 彼の手を取って両手で包んだ。
 母がそうしてくれたように。
 そして、その手に私の口付けで誓った。

『決して離しては駄目よ』