なのに、こんなにも感情が強く揺さぶられるのはどうしてなのだろうか。
 十年ぶりに見る懐かしい顔はずっと憎かったはず。
 少し痩せただろうか、年より老けて見える気がする。 歩く姿は昔ならもっと元気で軽やかだったのに、今は猫背、過ぎた年月を感じさせる。

 大好きなはずだった母の歩く姿を見て、涙が止まらない。

 キャンベル家のお母様とは数回しか顔を会わせた事がない。
 お母様が私を避けているらしいのは気付いていたし、会いたいとも思わなかったから天国に召された時も悲しくなかった。

 なのに今は、育ててくれた憎いはずの母が恋しくてたまらない。
 私は両手で顔を覆って泣いた。

 キャンベル家とあの子から奪われた私の時間を取り戻したかったのに、もう取り戻せないものがそこにある。

 どのくらい、そうして泣いていただろうか。

 人の気配を感じて顔を覆っていた手を離すと、そこにいたのは目の前に昔と変わらない顔。 さっきまでどこかへ行こうとしていたはずなのに。

「お若い貴方、どうなさったの?」