でも、実際は違った。
不思議な能力(ちから)を持つ(おう)を里のみんなは恐れ、そして「いつかあの子の能力(ちから)がこの里を滅ぼしかねん」と噂していたんだ。

ーーああ、そっか。
(おう)は、俺と少し似てるんだ。

違和感なく、スッと役に入り込めた意味が分かった。

普通に見てほしい。
普通でいたい。
好きな人と、ただ一緒に居たいだけなんだ。

(げつ)は見てくれた。

"ただ、いつもみたいに微笑っていてくれたらいい"とーー。

そう、能力(ちから)の事なんて望まずに愛してくれた。


それって、最高に……幸せ、だよな。

そう思ったら、俺は微笑んでしまった。
ここは(おう)(げつ)の想いに触れて、泣きながら必死に自分の気持ちを伝える大事な場面(シーン)なのに。

それ、なのに……。
次の台詞がもう口から出て来なくて、ただただ涙を流して、微笑んでしまった。

ーーダメだ。
これじゃあ、失敗……。

「ーー愛してる」

「っ……?」

フワッと優しく、包むように抱かれた。
ミライさんが、腕を引き寄せて、俺を抱き締めた。

本来、この場面では(おう)がやっと素直に自分の気持ちを告白しようとして……。でも、気持ちを伝える前に(げつ)が銃殺されてしまう切ない場面だ。
……それなのに、…………。

「愛してるよ……」

舞台にはない台詞と行動。
ミライさんは、俺を抱き締めたまま、もう一度そう呟いた。