……けれど。
続けて曲剣での攻撃に移り瞬空(シュンクウ)さんが斬りかかると、ツバサは身体の柔らかさを生かして背後に反ってそれを交わし……。そのまま重心を低くして駆け出すと、滑り込むようにして地面の拳銃を拾って、片膝を着いたまま瞬空(シュンクウ)さんの背後に拳銃を構えた。

「!!ッーー……。す……ごい、……っ」

胸がドキドキ、する。
もうダメかと思ったのに、ツバサが瞬空(シュンクウ)さんの背後を取った。
今まで見た事もないくらい息を乱し、汗をかいているけど、あの窮地を見事にツバサは返した。

すごい!すごいっ!すごいよっ……!!
やっぱりツバサはすごいッ!!

興奮と感動でその場を跳び上がってしまいそうだった。


でも、それも束の間。
瞬空(シュンクウ)さんの言葉で、全ての熱が冷めていく……。

「何故、撃たない」

それは、決して拳銃を向けられている人が言える言葉でも、口調でもなかった。
ゆっくりとツバサの方に顔を向ける瞬空(シュンクウ)さん。その表情は、全く汗をかいていなければ、焦りの色も全くなくて……。口調と同じくらい、冷めていた。

「夢の配達人の掟、人を殺めてはならぬ、と言う事を気にしているのですかな?
ならば心配は無用です。急所に当てなければ1発や2発で、人は死にませぬよ?ツバサ様」

「ッ……!!」

その言葉に、ツバサはギリッと歯を食いしばるようにすると、拳銃を持つ手が、細やかに震え始める。

「拳銃が飛ばされる方向や距離を予測してワザと私の蹴りを受け、背後を取るまでは合格点でした。
……けれど。勝利条件を満たしておらぬ以上、残念ながら貴方様に白金バッジは譲れませぬな」

「!!ッーー……ガ、ハッ……!」

それは一瞬。
まるで瞬間移動したかのようにツバサの目の前に現れた瞬空(シュンクウ)さんは、左手で彼の喉を掴んで、軽々と持ち上げた。

「!!……っ、ツバサーーーーーッ!!!!!」

急展開に、彼の名前を叫ばずにはいられなかった。
さっきのドキドキとは違う、興奮から恐怖へ……。ドクンッドクンッと、嫌な心音が自分の中に響き渡る。
それでも、まだ勝利条件が満たされていない目の前では下剋上は続行される。