「君はツバサの良いところは、どこだと思いますか?」

ツバサの良いところーー?

そんなの、たくさんある。
思い出すだけで嬉しくなって、ボクは笑顔で答えた。

「えと、何でも出来て、頭が良くて!判断力も行動力も、決断力もあって……。それから、何より心が綺麗で優しいです!」

心が綺麗で優しいーー。
それは、ボクがツバサを1番好きな理由にも違いなかった。

でも、最高責任者(マスター)が言った。

「そうです。"それ"が弱点です」

「!……え?」

「ツバサは"優し過ぎる"。
綺麗な心は、時に、そしてこれからの彼に諸刃(もろは)(つるぎ)となるでしょう」

「……」

一瞬、意味不明だった。
ツバサの1番良いところ。1番好きなところ。
自分が目指す、憧れの夢の配達人像を持つ彼を否定されたようで……。言葉が、出なかった。
最高責任者(マスター)は続ける。

「出身国なのですから、君はドルゴアという国が、サリウス王子がどんな人物なのか知っているでしょう?」

「……」

「ツバサの武器が優しさ。
ならば、その優しさを無視して、サリウス王子が力尽くで迫ってきたら?武力を使ってツバサを攻めてきたら?」

「……」

「間違いなく、今のツバサでは敵いません。最悪、命を落とします」

「……」

最高責任者(マスター)に言われて、ボクは自国とサリウス様の事を思い出していた。
男は強くて当たり前。何よりも強さを誇り、力でねじ伏せる事が、相手を絶対服従させる為に必要な事だと、言われていた。
ボクはその考えが嫌で、理解出来なくて、それ以外の強さを求めた。

「優しさ、綺麗な心。
確かにそれはツバサの持つ最大の武器。
でも、優しいだけじゃ、護れないものもあるんです」

その言葉に、胸がズクンッて痛んだ。
好きな人の事も、自分の希望も否定されたようで、ショックと同時にこの時ボクには最高責任者(マスター)に怒りの感情が芽生える。

強さは力ではないーー。

初代最高責任者(マスター)のその言葉に救われて、力以外の強さを求めてここへ来た自分。
それなのに……、……。

「やっぱり、力でぶつけて来る相手には力で勝負するしかない、って……事ですかっ?」

悔しいような、何とも言えない感情が湧いて来てグッと拳を握り締めていると、それまで無反応だったノゾミさんがバッとボクと最高責任者(マスター)の間に入り、静かに睨むように見てくる。
それを止めるように最高責任者(マスター)はノゾミさんの肩を軽く叩き、そしてボクに言った。