でも、ツバサならきっと大丈夫ーー!!

だって彼は自分にとって憧れで、絶対の存在。いつだって予想を超えて、ボクの胸を震わせてくれた。
だから、きっと今回もーー……。

「ーー……ツバサ?」

視線を隣に向けたボクは、思わず名前を呼ぶ。

それは、初めて見る表情のツバサだった。
少し俯いて、眉間にシワを寄せた難しい表情。悔しそうにも見えるその顔のまま、彼は目を閉じて軽く深呼吸すると、キュッと口を結んでくるっと方向転換して……。ボクを一度も見る事なく、瞬空(シュンクウ)さんを追って部屋を出て行った。

その雰囲気にもう一度名前を呼ぶ事も、すぐに後を追う事も出来ずにいると、最高責任者(マスター)がノゾミさんの肩に手を置き会話を始める。

「さて、ノゾミ。私達も行きましょうか」

「そうですわね」

その言葉にハッとして、二人の後ろから付いて行こうとすると、最高責任者(マスター)が今度はボクに言った。

「ジャナフ、今回君は来ない方がいいかも知れません」

「!……え?」

「いつものように、"ツバサの活躍"が見たいと思っているのなら……。それは期待外れです」

「え?っ……あの、……」

最高責任者(マスター)の言葉の意味が分からない。「どういう意味ですか?」と問おうとしたが、その返事はすぐに返ってくる。

「今回ツバサの見せ場はおそらくないでしょう。
彼の"敗北"を見たくないのなら、やめておきなさい」

「!っ……。なん、ですかっ……それッ」

ツバサの敗北ーー?

それは信じられない言葉だった。

負ける?ツバサが?見せ場が、ない?

まるで目の前にあった自分の宝物が、突然消えたような感覚に陥る。
そんな筈がない、と思いながらも言い返す事が出来ないのは、きっとさっきのツバサの表情を見てしまったからだった。

「……でも。君がしかと現実を見る覚悟があるのならば、見た方がいいでしょう。
世界は広い。ツバサが全てではないと、分かる筈ですから」

「っ……」

黙ったままのボクにそう言って、最高責任者(マスター)はノゾミさんと部屋を出て行く。

ツバサが全てではないーー。

その言葉が、妙に心に突き刺さった。
何故こんなにズキズキするか分からなくて……。ボクは答えを知る為に、みんなに付いて部屋を出た。