昇降口の傘置き場。
そこに、私の傘がなかった。
朝差してきたのは、小さな花柄が入った安物の傘。何度探しても、違うクラスの傘置き場を探しても、どこにも見当たらない。
誰かが間違えて持って行ってしまったのだろうか。
考えたくはないけど、嫌がらせの一環ということも考えられる。
……いや、でも今は無くなった理由なんてどうでもいい。こんな激しい雨の中、傘なしに帰らなければならないというのが問題だ。
こういう時に限って折り畳み傘は持っていない。
私は途方に暮れて空を見上げた。
……どれぐらいの間、こうしてぼんやり立ち尽くしていただろうか。
「小野山さん、こんなところで何してるの?」
いきなり、後ろからトントンと肩を叩かれた。
振り返ってそこに立つ人を見た私は目を見開く。
「遠坂くん……」
「帰らないの?」
不思議そうに首をかしげる遠坂くん。
久しぶりに声を聞いたような気がする。



