鵠ノ夜[中]




「あ、あきらめないもん」



「悪いけど帰って。

俺がしつこくされるの嫌いだって、菓知ってるよね?」



「こーちゃん……」



「菓が俺に何を夢見てんのか知らないけど。

俺は菓と付き合う気なんて一切ない」



ばっさり。切り捨てた胡粋に、ついに彼女がじわりと涙を浮かべる。

一瞬にしてあふれたそれは、ぽたぽたと頰を伝った。それを冷めた目で見ていた胡粋。



「こーちゃんが菓と付き合ってくれないならっ、

こーちゃんに無理やり襲われたことママとパパに言う!」



──が。

彼女のその言葉に、顔色を変えた。




「なに言ってんの、菓」



「こーちゃんのママとパパにも言って、ぜったい責任取ってもらう!」



「菓」



ため息をつきたいのか舌打ちしたいのかわからない、曖昧な表情で。

胡粋は立ち上がって彼女に近づくと、言葉とは裏腹に抱きついてくる女の頭を優しく撫でた。



「ごめん言いすぎた。泣き止んで、菓」



こぼれる涙を拭ってやって。

慈しむみたいになだめた胡粋に絆されて、彼女は素直に泣き止んだ。それから抱きついて離れない彼女に、「ゆっくり話そう」って話しかける。



その、彼女が見えない一瞬の隙に。

顔を歪めた胡粋を見て、コイツ何やったんだよと思わず呆れた。