鵠ノ夜[中]




「おかえり。遅かったね」



「お嬢、コイツになんもされなかった〜?

だいじょうぶ〜? 俺心配すぎて、」



「レイ大丈夫だよ、気にしなくて。

こんなこと言ってるけどコイツさっきまでちょっと寝てたから」



──こいつらキレんだろうな、と。

冷静に考えていたら、レイは「何もされてないわよ」とくすくす笑った。その姿は、至っていつも通りで。



「いや寝てないし……!

ちょっと、ほんの一瞬、眠いなって思っただけで」



「まあ、シュウは俺の中で安全牌扱いだから心配とかしてなかったけどね」



「胡粋俺のこと完全スルーじゃん……!」




まさか俺がその油断しきったくちびるを奪ったなんて、夢にも思ってねーんだろうけど。

安全牌って言われると、それはそれで動きにくくて面倒なものがある。



「ねえねえ、レイちゃんー。

夏休みもうちょっとあるけど、空いてる日とかある?」



「わたし?

そうね……明日は午前中にお母様の面会に行って、夜はまた会食があるし、」



つらつらと、プライベートなことから稽古、仕事を並べるレイ。

どう考えたって、空いてる日はないらしい。



「あ……そうそう。

明日、胡粋に来客があるのよ」



「来客? ……しかも俺だけ?」



めずらしいこともあるらしい。

各地実家がそう近くはないせいで日頃来客なんてものは無く、個人での来客に至っては一度もなかった。