はっと鼻で笑ってそう搔き消したというのに不安げな表情を隠さない彼女の腕を引く。
そしてわずかに腰を屈めると、遠くの車のエンジン音がはっきりと聞こえるほどには、目の前が静かになった。
「俺は、」
自分の発した言葉が、わずかに空気を波立たせる。
至近距離で、ほんの僅かな驚きも滲まないその瞳が憎たらしくて、もう一度噛み付くようにくちびるを重ねた。
「なんとも思ってないヤツに、こんなことしねえよ」
今度こそ、彼女の瞳が僅かに揺れる。
それを見て、「俺何やってんだ」という気にはなったけど。だからってそれ以上も以下もなかった。
「柊季。それって、」
わたしのこと好きなの?なんて。
そんな野暮なことは、できれば聞かないでほしい。……まあ聞かれたところで、「さぁな」って答える以外になんもねえけど。
「さぁな、って……」
「好きなら好きで、違うなら違うだろ」
「……たまにめちゃくちゃなこと言うんだから」
なんとも思ってないヤツにこんなことしない、とは言ったけど。
好きなヤツにしか、と言わなかったのは、当然ながら誤魔化しているからだ。その意図に気づかないなんて、コイツらしくない。
聡いコイツなら、すぐにでも。
「そろそろ帰るか」
……俺の気持ちになんて気づきそうなのに、と心の中で毒づく。
俺だって何も、気づかれないと思って彼女に思い切ったことを言ったわけじゃ無い。むしろ。──掻き乱すのが目的だ、なんて。



