少し、不可解な顔をしてしまったのかもしれない。影君が箸をおいて、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「……混乱させたなら、ごめん」
「ううん。……私も、ごめんなさい。きっといま、変な顔、しちゃってたよね」
「……いや、僕が突然、陽の名前なんて出すから。……えっと、もしも文子さんが知りたくなかったら、申し訳ないけど、」
「ううん、」
「……勝手に、説明すると、……僕と、陽は、たぶん、初めは好みが同じで、少しずつ、変わっていった気がする。……考え方が、違うから。でも、同じところもあって、だから、好き嫌いが重なることがある。蕎麦が好き、とか、恋愛映画が嫌い、とか。そんな、感じ、だけど」
「……そうなんだ。不思議、だね」
「……怖がらせてたら、ごめん」
そんなのは、本当に今更な気がするし、今はもう、影君のことに関して恐怖なんてみじんもない。
大げさに首を横に振って、「怖くなんて、あるわけないよ」と影君に伝えたら、影君は、ホッとしたように息を吐き、それからまた、静かにお蕎麦をすすった。
お蕎麦を食べ終えた後は、隣町の大きな川沿いを二人で歩いた。
口数は、そんなに多くない。
だけど、楽しかった。
森田君ではない。
影君といるのは、楽しい、と思った。



