きみは溶けて、ここにいて【完】





「変わってくれない?」


 どうして、という言葉を飲み込んで、ゆっくりと頷く。


「いいよ」と言う声が、少しだけ震えてしまった。夏目さんと梨木さんは、「ありがとう」と嬉しそうに口角をあげて、すぐに教室から出ていった。


廊下から、「カラオケいこー」という声が耳に届いて、胸にじんわりと黒色の気持ちが滲む。だけど、断らなかったのは私だし、理由を聞いていたとしても、断ることなんて私には、できなかったと思う。



 保志文子は、断らない。


 一年生のとき、クラスメイトがそう言っていたのを聞いてしまったことがある。


ああ、そうか。私ってそういう風に思われているんだ、と、自分の客観的な姿を、その時、悟った。二年生になってから、まだ少ししか経っていないのに、すでに私は、クラスでそういう立ち位置にいるみたいだった。だけど、誰かを傷つけてしまうよりは、ずっとましだ。



 黒板を消して、学級日誌を書く。記入欄に、夏目さんと梨木さんの名前を書くとき、ほんの少し虚しくなったけれど、ぱたん、と日誌を閉じてしまえば、その虚しさも消えてくれる。

最後に、窓が閉まっているか確認して、教室を出た。