きみは溶けて、ここにいて【完】






「僕は、昔、陽が中学生のときに、土砂降りの雨が降ると、わざと、傘を持たずに外へ飛び出して、街中をうろつきまわっていたことがあった。……こんなことを言って、文子さんを幻滅させてしまったら、本当に、ごめん」

「し、ない」

「……全て、壊れてしまえばいいと、思ってたんだ。雨に打たれて、その部分から、壊れてしまえばいいって。汚れものは全て水性で、雨に当たれば、それが、洗い流されて、真っ当になれるのかもしれない、とも思っていた。僕が駄目だから、不幸が起こる、とも思っていた。とにかく僕はめちゃくちゃで、どうしようもなくて、今の何倍もだめで、だめでしか、なくて、一番は、僕は、自分の存在を確かめるために、身体が濡れて、寒くて、苦しいことを確かめるために、とにかく、ずっと、土砂降りの雨が降るのを待っていた」



 森田君が林間学校の夜に言っていたことを思い出す。土砂降りの日に外へ行くと言っていた。自暴自棄なるのは、きまって影だ、と。



 影君が存在しているきっかけのようなものを、もう知っている。だから、余計に苦しくて。


しなる鎖の表面で、微かに光る夜の銀色が目に沁みる。

相槌を打てないまま、私は、ただ、影君を見つめていた。




「僕は、ひとり、なんだ。僕は、ひとりで、いるべきで。僕は、弱さだ。陽の、弱さだと思う。だけど、もう、僕は僕になってしまって。だけど、誰も僕のことなんて知らないから、ひとりでいるしかなくて、それが、本当は、すごく怖かった。孤独、だったんだ。話す人もいない。僕は、僕が、存在していると、雨に打たれて、陽の大切な写真を破って、苦しいと思うことでしか、証明できなかった」


 叫びは、雷のような劇的なものではなく、静かに、ただ静かに、落ちていく木の葉のような場合もあるのだと知る。

世界の苦しみが共鳴しているような気がした。私は、足にぐっと力をいれて、ブランコを揺らさないようにしていた。

意識しなければ、力が抜けてしまいそうだったんだ。