きみは溶けて、ここにいて【完】





 上履きの上。


昨日、森田君にもらったメモとは違う。下駄箱にはあまり相応しくない上品なクリーム色の封筒が、ぽつんと置かれていた。


誰にも見られないように、慌てて、鞄にしまう。


ラブレターをもらったなんて思われてしまったら、恥ずかしい。私のことを気にする人なんていないと分かっているのに、自意識が過剰になってしまう自分が嫌だった。




 トイレの個室でこっそりと、封筒を確認する。

丁寧にワインレッドのシールが貼られたその下に、差出人の名前が書かれていた。



―――森田 影。



 心臓が、不思議な心地に跳ねる。


眠気は、もう吹っ飛んでいた。個室の壁に背をつけて、なぜか息をひそめてしまう。

封筒が破れないように、シールを外して、中を確認する。そこには、一枚の便箋が綺麗に二つ折りにされて入っていた。



 見てしまえば、全てを本当の意味で信じなければならないことになるんじゃないかと思って、私は少し怯えていた。


だけど、どんな字なのか、影君とはどんな“人”なのか、何が書かれているのか、それらを確認したいという好奇心の方が強くて、恐る恐る、便箋を開く。  



 保志 文子様、

便箋の一番上には、ボールペンでそう書かれていた。昨日もらったメモの何倍もきれいな字が並んでいる。誠意のある筆跡だと思った。

森田陽君が私に森田影という存在を信じ込ませるために書いたのだ、と疑う気持ちが、私に背を向ける。



 緊張で、上手に息が出来なくて、春なのに夏のように身体が暑かった。一度深呼吸をして、ゆっくりと、目で文字をなぞる。